丈夫がいいね
(2499)口は災いのもと 大病に備えて(下) 親知らずが治療のネックに がん発覚後の抜歯は困難
 「親知らず」は、あってもいいのか。それとも抜くべきか。そんな疑問を抱いている人もいるだろう。石川県立中央病院歯科口(こう)腔(くう)外科の宮田勝科長は、「正常に生えていない親知らずはトラブルのもとにしかならない。抜いておくのが望ましい」との見解を示す。
 親知らずは、正式には「第三大臼歯(きゅうし)」(智歯(ちし))といい、奥歯の最も奥まった位置に、上下左右の計4本存在する永久歯である。生え方には個人差があるが、斜めに出てきたり、歯茎から一部だけが露出したりと、いびつな場合が多い。
 これは、食生活の変化に伴って現代人の顎が小さくなり、本来は親知らずが位置すべき口腔内のスペースが失われているためといわれる。
昭和世代は放置?

親知らずがある人のレントゲン画像。接触する隣の奥歯の根っこを傷つけやすい  親知らずの周りには深い歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)が形成され、細菌の温床となって慢性炎症が起きがちだ。この段階では自覚症状に乏しいが、時として急性炎症に発展し、痛みや腫れが現れる。
 「昭和生まれの世代は、痛みなどの問題が生じてから抜けばいいと思い込んでいる」(宮田科長)といい、放置している人も少なくない。
 県立中央病院で乳がんの手術を受けた50代女性は、その後の検査で全身の骨にがんの転移が認められ、化学療法を追加で行うことになった。
 抗がん剤治療に際し、口腔状態を事前に調べる必要があることは前回に触れた。女性は問診で歯に痛みなどはないと答えたが、エックス線撮影したところ、左の下顎部分の歯茎内に、親知らずが埋まっているのが見つかった。
 外からは見えないが、歯茎が少し盛り上がっており、押さえると黄色いうみがにじむ。詳しく聞くと、「体調が悪い時は少し痛むが、2〜3日で治るから気にしていなかった」という。
 きれいに露出していない親知らずは、その周辺の歯茎に常に負担を掛けており、切れたり、出血したりしやすい。健康な時にはさして問題ないが、免疫力が低下した状態だと、その傷から歯周病菌などが入り込み、腫れや痛みが悪化することがある。
 また、斜めに生えた親知らずは、接触する隣の奥歯の根っこを傷付け、菌などの侵入経路となってしまう。抗がん剤治療時は、免疫力が落ちて菌が全身を巡りやすく、最悪の場合は、命に関わる敗血症に陥る。
顎骨壊死の恐れ

 この女性患者の場合、もう一つのリスクがあった。乳がんが骨に転移した場合、抗がん剤と同時に、骨の吸収を抑制する薬が使われるが、これが顎の骨に作用すると壊死(えし)を引き起こす恐れがあるのだ。
 宮田科長は「早めに抜歯しておけば、抜けた穴がやがて歯肉に覆われてバリアーの機能が戻り、ばい菌や薬剤の影響を防げる」と説明する。
 女性は迅速な抜歯により、穴がふさがるのを待ってがんの化学療法につなげられたが、これは幸運なケースだ。50代ともなると、局所麻酔での抜歯が困難になり、全身麻酔による手術となる場合が多い。患者の全身状態によっては抜歯ができないために、がん治療にストップがかかることも考えられるのだ。
 結局、親知らずはいつ抜くべきなのか。「理想を言えば、女性は妊娠を控えて結婚前に、男性も歯の周辺の骨が柔らかい20代前半に抜いた方が、その後の違和感が残りにくい」と宮田科長。時期を逸した中年以降の世代も、がん治療などに備えて早めの処置を心掛けよう。