丈夫がいいね
(2423)救急の現場にて 求められる冷静さと経験 動揺する家族の側に
 シンと寝静まる深夜、金大附属病院の救急部に一本の電話が入った。電話口は若い女性。「子どもが…、ゼーゼーって」。気が動転しているのか、詳しい状況を説明できない。救急部への電話では、よくあることだった。
涙声の電話

カンファレンスで経験を共有する看護師=金大附属病院  「ちゃんと病院につながってますよ」。看護師がゆっくり声を掛ける。落ち着き始めた女性は、まもなく1歳を迎える子どもが夜になって呼吸が変わったことを説明した。「初めての経験で」。涙声だ。
 「クループかもしれない」。看護師の頭に、ある病名が浮かんだ。子どもがかかりやすい感染症の一つで、気管が圧迫されて呼吸がしづらくなる。薬で治療できるが、放っておくと、最悪、死に至る。
 確かめるためには、呼吸音を聞くのが早い。看護師は機転を利かせ「お母さん、スマホを赤ちゃんに近づけてください」と呼び掛けた。
 犬が遠吠えするようなせきが聞こえる。間違いない。看護師はすぐに病院に来るよう伝え、ほどなく女性が子どもを抱えてやってくると、医師による処置が行われた。
 女性は近くに親類がおらず、夫が出張中。たった一人、子どもの急変と向き合うしかなかった。看護師の的確な助言がなければ、危険な状態に陥っていたかもしれない。
 同病院の救急部は、時間外の受診や救急搬送など年間約6千件に対応している。加えて毎夜、電話での相談も三、四十件寄せられる。同部の乾早苗看護師長は「一刻を争う状況もある。大切なのは冷静さ。そして、看護の引き出しの多さです」と心得を語る。
 病気を診断するのは医師だが、救急外来に訪れたり、電話で相談を寄せたりする患者と最初に接するのは看護師である。顔色や息づかい、皮膚の温かさなどを確認し、診断を下す医師に正確に伝えなくてはいけない。「脳梗塞ではないか」「心臓の疾患かもしれない」。豊富な知識と経験が求められる。
 一見すると、緊急性は低いように思えても、大動脈解離(かいり)や、くも膜下出血が隠れている可能性がある。このため、救急部の看護師8人は集中治療部や小児科、産婦人科など他部署で経験を積んだ人員がそろっている。
 心情的な寄り添いも必要だ。患者や家族にとって、体の急変、救急車の音、夜の病院はどれも「非日常」の連続だ。生と死が交差する場面もある。動揺は避けられない。
 別の日の深夜、心肺停止で70代の男性が救急車で運ばれてきた。同乗の妻によると、寝ていたところ、突然もどしたのだという。
引き出し増やす

 蘇生措置はかなわず、男性は亡くなった。「嘔吐物を口から出してあげることは普通できませんよ」「気づくのが遅いということはありません」。立ち尽くしていた妻に看護師はできる限りの言葉を掛けた。
 こうした対応は一朝一夕にできるようになるわけではない。経験を積んでこそ、看護の引き出しは増えていく。そのため、救急部では経験を共有するためのカンファレンスが救急対応の合間をぬって医師とともに行われる。乾看護師長は「地道だが、日々の努力しかない」と話した。